勉強会報告

BBCA第四期 第2回 2019年4月23日 【川鍋 一朗 氏】

川鍋 一朗 氏

2019年4月23日。ビューティ・ビジネス・コンプライアンス勉強会(BBCA)第四期の第2回目が開催された。

タクシー業界大手の日本交通株式会社 代表取締役会長であり、Japan Taxi株式会社の代表取締役社長CEOでもある川鍋一朗氏は、お客様の移動UX(ユーザーエクスペリエンス)を最適化するということを目的に、ITを駆使してお客様の満足度を高めるため、日々新しい施策に取り組んでいる。今回は、そんな川鍋一朗氏を講師に迎えての勉強会が始まった。

講義「世界一の移動UX目指して」

日本交通株式会社 代表取締役会長/JapanTaxi株式会社 代表取締役社長CEO 川鍋 一朗 氏

profile:
1970年生まれ。1993年に慶應義塾大学経済学部卒業。1997年、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得する。同年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンへ入社。その後、2000年に日本交通株式会社へ入社する。2005年に代表取締役社長、2015年には代表取締役会長に就任。三代目として『黒タク』や『陣痛タクシー』、『キッズタクシー』を導入。関西圏にも事業エリアを拡大し、約5,200台の国内最大手のハイヤー・タクシー会社を牽引。また、タクシー業界にITの力を持ち込み、日本最大のタクシー配車アプリ『Japan Taxi』の提供をはじめ、『Japan Taxi Wallet』などの決済手段の開発などを通じ、「移動で人を幸せに」をテーマに日々進化するタクシー改革を加速。さらに、2014年5月東京ハイヤー・タクシー協会の会長、2017年6月全国ハイヤー・タクシー連合会の会長にも就任した。

川鍋一朗氏は大学を卒業して4年間、アメリカのケロッグにある大学院で経営を学びMBAを取得。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンでファーストキャリアを経験し、2000年に家業である日本交通株式会社に入社した。

「幼い頃から、初代社長である祖父に『お前が日本交通の三代目だ』と、言われながら育ちました。そのこともあり、将来社長になるにはどうすればいいのだろうと、漠然とは考えていましたね。30歳までは修行期間と決めていましたし、海外に行ってビジネスを学ぶことで何か見えてくるものがあるのかもしれないと」。

入社してすぐに新規事業を立ち上げるも多額の負債を抱えてしまい、その立て直しに奮闘する日々。海外の大学院や前職のコンサルティングで学んだことを活かそうと試みたが、すべてが机上の空論だったという。

「まだまだリアルなビジネス感覚がなかった。毎日があっという間に過ぎていき、今までにいったい何を学んできたのだろうと、何度も何度も自問自答しましたね。でも、その時の経験は今の私にとって、とても貴重なものになっています」。

その後、一つのターニングポイントが訪れた。2005年の社長就任である。これまでに会社が抱えていたマイナス要素を切り捨て、まさに会社の改革に打って出たのだ。各部署から優秀な若手を集め、プロジェクトチームを結成。それぞれの立場から様々な意見を出し合い、経営を抜本的に見直した。特に、タクシー料金や人材採用を徹底的に分析し、現場であるタクシードライバーの意見にも耳を傾け、数々の改善を図っていったのだ。

「いくら改善を進めても社員の理解がなければ無意味です。そのため、現場へ足を運び、理解してもらえるよう説明しました。また、社内メールマガジンを始めたり、アンケートを実施したり。それから、実際にドライバーとして現場で働きました。現場目線でビジネスを知ることができましたし、移動の法則性の発見やお客様とのやり取りはとても面白かったです」。

改めて実感したのは、過去の経験ではなく、その経験で何かを生み出すことの重要性。まずは、行動に移して結果につなげる。それが自分を高めてくれるのだと、過去を振り返りながら話してくれた。

続けて、2011年からは新しい取り組みにも挑戦。都内でのデイサービスやキッズタクシー、そして、日本交通のタクシー配車アプリだ。

「デイサービスをあまり軌道に乗りませんでしたが、キッズタクシーやタクシー配車アプリは順調に進みました。特に、アプリ事業に関しては、私や会社の将来像を大きく変革したと言っても過言ではありません」。

配車アプリはSNS上でも反響があり、売り上げを大きく伸ばした。また、日頃タクシーを利用しない世代にもアプローチすることに成功。新規顧客の開拓につながったのだ。そこで会社はITビジネスに対するベクトルを拡大していったと川鍋一朗氏は言う。

「日本交通のグループ会社であるJapan Taxiでアプリ開発を進めることに。アプリでは賞をもらう機会もありましたね。その中で印象に残っているのは、2013年にエンジニアたちとシリコンバレーに行った時のことです。そこで出会ったタクシーアプリには全員が驚かされました。特にGPSの正確性はすごかった。タクシーのビジネスモデルが大きく変わる。そんな新しい可能性が、この地で育っているということを実感しました」。

そこから、“タクシー業界はIT業界との融合が必要である”と感じ、テクノロジーとの戦いを始める覚悟ができたと。しかし、当初は苦戦の連続だった。

「現在はJapan Taxi社長としてITの仕事に注力していますが、当時は、エンジニアという生き物を理解するのが大変でした(笑)。また、文系出身の私にとってプログラミングは別世界の話。そのため、プログラミング教室にも通いました。一文字違うだけでシステムが動かない。たとえば、スペースが半角か全角かの違いです。とはいえ、実際にシステムが動いた時の快感はひとしおですね」。

Japan Taxiで多くの時間を費やしてきた川鍋一朗氏。IT分野で戦うために自身の考え方もIT化にするように心がけている。そのこともプラスとなり、現在ではアプリ経由での乗車が急成長。また、お客様の乗車UXをより良くするために、タブレットを独自開発してセルフレジというサービスも展開中だ。日頃から蓄積したデータを活かしたドライブレコーダーの開発など、AIなどを駆使して様々なテクノロジーに挑んでいる。

「弊社ではアプリやスマホ決済などのシステム開発を大きな軸にしています。そのため、外注することはせずに社内で完結。個性豊かなエンジニアたちと新しいシステムを生み出すことに試行錯誤しています」。

108年という長い歴史のあるタクシー業界。そのイメージやビジネスモデルに一石を投じた川鍋一朗氏。その波紋が広がったことで、会社や業界の成長を実感しているという。
タクシー業界としては馴染みのなかった新卒採用にも着手。すでに8期生が誕生している。

「今後は、アプリも、車両も、ツールも最新のテクノロジーが揃っていきます。そして、それをお客様に提供するドライバーも考え方が新しくなり、すごくフレキシブルで、さらに魅力的な乗車UXになっていくでしょう。たとえ自動運転の技術が進んでも、人にしかできないこともまだまだ多い。タクシー事業を通じて社会貢献をしていきたいですね」。

川鍋 一朗

最後に、川鍋一朗氏は講演をこのような一言で締めくくった。

「Japan taxiは『リアル×IT』によってタクシー産業を改革していく」

と。

講演後には参加者からいくつもの質問があり、講演同様、ユーモアを交えながら熱くお答えするその姿は、佐藤尊徳が冒頭の挨拶で紹介していた「人間味のある経営者」を物語っている。

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